SCENE7 師長と主任の役割を考える 病棟を一緒に牽引していくパートナー

 師長や課長になると、管理者としての大きな使命があるのではないかと考えてします。職務規定では、「師長とは...」といったことが書いてあるが、いまひとつ理解できない。さて、管理者の役割とは?管理者の役割を考えるに当たり重要なことがある。それは、病院によって管理者の役割は違うし、部門によっても違う。さらに、師長や主任という役職でも違う。これは一体なぜなのであろうか?病院は、日々新しい課題に挑むことを仕事としている。同じ病名でも患者によって違うため、オーダーメイドで治療を行っている。そのため、管理業務も定型化できないことが多く、その都度対応が管理職の評価を左右する。

 病院の管理においては、師長不在の時は主任が師長の仕事を代行するといったことも珍しくない。そんな中、師長と主任の仕事についてはっきりと分けることは難解である。

 奈須は、病棟の主任である七瀬と管理業務についてミーティングをしている。師長して、七瀬が自分に求めることと、奈須が主任である七瀬に対して何を求めているか、すり合わせが必要だということをそれぞれが感じていた。これから病棟のスタッフが働きやすい職場を作るためには、お互いの方針と役割分担について詰める必要があった。

奈須:七瀬さん、2人で病棟をどうやって管理しましょうか。

七瀬:私も「師長のサポート頑張ってね。」といわれて主任になったけど、具体的に何をすればいいのか迷っています。

奈須:確かにそうね。ポジションに対して、心得的なものと職務規定はあるけど、どう考えて行動すれば良いのかな。私はあまり考えてこなかったわ。ただ一つ思うのは、師長だから、主任だからってことはないと思うわ。

七瀬:そんなものですか。そう言われると気が楽になります。以前、私が主任になった時にすぐに読んだ本には、師長とはこうあるべき、主任とはこうあるべきと書いてありました。それを読んだとき、違和感があったのですが、そんなものかと思っていました。

奈須:私も主任になった時に読んだわ。でも実際には、うちの病院でも病棟によって少し違うでしょ。だから、私は仕事ベースで考えるようにしたの。例えば、看護部長から私が望まれていることと、スタッフが感じる師長としてあるべき姿について、双方の合致する部分が私の役割なんだと思っているの。だから師長として決められた仕事はやるとして、明確でない部分については手探りよ。

七瀬:奈須師長もそうだったんですか。そうすると私は、奈須師長が望む私の役割とスタッフが感じている主任として決められた業務の3つを気にしながら仕事をすればいいんですね。

奈須:そうね。この病院では、主任は師長の補佐役とされているため、私の仕事を代行する時もあるわね。でもスタッフと同じ仕事もするわけだから大きな負担よね。病院では、プレイング・マネジャーがもてはやされるところもあるため、管理職は大変なのよね。そういう意味では、師長も管理だけをやっているわけにはいかないのよ。本当に病院って独特よね。会社でいえば社長である院長も診察したりするからプレイング・マネジャーなんだから。

七瀬:やっぱり病院の管理職って大変ですよね。

奈須:そうね。病院の管理職に対する評価って、(図8)に書くけど、部長と師長、主任を比較すると、階級が上に行くほど成果を求められるの。院長といった経営者なんか究極よね。病院の管理がうまくいかず、病院の評判が悪くなれば、病院は破たんしてしまうものね。患者さんは、あの病院は頑張っているからではなく、評判の善し悪しで受診するでしょ。看護部長もそうね。看護部として成果が上がらないということは看護部長の責任になるから成果を中心に評価されることになる。いまは、どの病院でも入院基本料により経営が左右されるから看護師の離職率が看護部長に影響を与えるのかもしれないね。

七瀬:上に行けばいくほど大変なんですね。私は、上に行ったら威張ってられるのかと思っていました。冗談ですけど。(笑)

奈須:私もそう思っていたわ。それと話を元にもどすと、一般的には師長と主任の違いは、組織図によっても違うのよ。(図9ー①)の①ように、組織図で師長の下に主任がいて、その下にスタッフがいる場合と(図9ー②)のように主任とスタッフが同列の場合があるの。①の場合は、師長から主任、主任からスタッフへと指示と命令が流れていき、逆にスタッフからの報告も流れていくのね。②は主任がスタッフと同列であり、先輩スタッフ的役割ね。

七瀬:うちの病院では、①ですが少し違和感がありますね。

奈須:うちの病院は、①の形を取っているけど、運用は①と②の折衷型ね。

七瀬:ところで、②の場合、スタッフは、主任とリーダーどちらに従えばいいのですか?

奈須:どちらに従えばいいかというと両方よ。

七瀬:違う指示が同時に出たらですよ。

奈須:その質問は、おかしいわよ。患者の治療に関して責任を持ち指示をするのがリーダーなので、基本的に主任とリーダーが違う指示を出すことはないはずだよ。サッカーを思い浮かべてもらうといいと思うけど、監督が師長、監督の補助をするのが主任、リーダーはキャプテンと考えてもらえればいいと思うのよね。サッカーも試合が始まるとキャプテン(リーダー)を中心に指示が出るでしょ。監督の指示は、基本的に休憩の時よね。それと同じなの。だから、看護業務の中心はリーダーとなるのよね。七瀬さんが勘違いしていたことを考えると、スタッフにも確認しないといけないわね。

七瀬:私も勘違いしていました。

奈須:これから私達の言動が違ってくると現場が混乱するので、意思統一とコミュニケーションをよくしていこうね。役割分担は、細かい業務も含めて考えるから、少し待っていてね。

七瀬:今日は、色々すっきりしましたありがとうございます。

奈須:また、ミーティングしましょうね。

 どの職種もチームによる業務の進め方を学校で教わりません。組織としてどのように業務を行っていくかは、現場に出てから学んでいくことになります。そのため、病院によって違う管理職の業務について、日々考えなければなりません。どれが正解ということもないのが、管理の世界です。